世界は意外とせまい

海外を転々としており、昨年3月からコロナ禍でミャンマーでの娘と子連れ単身赴任を終えて実家に帰ってきました。久しぶりの日本の生活、バイリンガル子育て、日本や世界の時事問題など気になることをつらつらと書いています。

親切とおせっかいの境界線。

今日、ミャンマーは本日、ナショナル・デーで祝日でした。4日間のチン州という山岳民族州からの出張から帰ってきて、ゆっくり休みたかったのですが、朝から娘の学校で保護者面談がありました。

 

基本的に明るく、誰にもフレンドリーだが、意外と分別もある方の娘は、幸い学校でトラブルがあったこともなく、保護者面談の際のフィードバックもほぼ全て肯定的でした。

 

先生からは、「〇〇(娘)は、誰とでも仲良くできて、みんなに親切なのが性格でとても良いところ」「社会性の観点からは、たまに親切を焼きすぎる時がある。他人と距離を置くというスキルも社会では重要なので、今はその点を学び中」と言われました。聞くと、例えばお友達が自分でできることを美亜ができないと決めつけて勝手にやってしまうことがあるということでした。「お友達も自分でやってみたいという気持ちを理解する必要があるわよね」と。

 

そう言われて、私がドキッとしてしまいました。

 

なんだか、自分のことを言われているような気がしたのです。というのも、最近思い当たる節が。

 

我が家には、現在、ナニー、メイド、運転手の使用人が3名います。メイドさんは二代目で、最初のメイドさんのお母さんです。初代メイドさんが某大使公邸に引き抜かれてしまったので、その代わりとしてシンガポールからの出稼ぎから引退して暇をしていたお母さんを紹介されて我が家にやってきました。運転手は、初代メイドさんの旦那さんで、現在のメイドさんは姑に当たり、この3人はメイド家に住んでいます。運転手はいわばマスオさん的存在。

 

初代メイドさんは娘をとても可愛がってくれて、今でも時々お土産を持って遊びに来てくれたり、週末にメイド一家の家に遊びに行ったり、メイドさんの帰りが遅くなった日には、我が家に泊まりに来たりと(我が家はかなりオープンにしていて、ナニーの友達とかも泊まりに来たりする)、家族ぐるみのお付き合いを続けています。

 

みんな働き者だし、仕事ぶりには全くもって問題はないのですが、一点だけメイド家には気になるところがあります。それが、運転手の酒・博打癖です。

 

ミャンマーの庶民階級の中では、男性のアルコールとギャンブル依存症の問題はもはやこれが標準なんじゃないかというくらい一般的な問題です。この国では、ミャンマー産のジンが一瓶100円ちょっとで買えてしまい、お酒を飲む男性はほぼ毎日晩酌の習慣があります。しかも、量も半端ないので、多くの人が認めない人も含めてアルコール依存症になっています。ギャンブルも、一口30円くらいで道端で売られているLotoのような宝くじが人気で、それも毎日やる人も少なくありません。

 

うちの運転手も例に漏れず、そのタイプです。彼の場合、仕事はしっかりするのでまだマシな方ですが、それでも、うちのナニーやら、姑であるメイドなどの方々からお金を借りては返さないということを繰り返しているとか。

 

一方で、メイド一家は、メイドさんの旦那さんは20年前になくなっていますが、メイドさんは長くシンガポールで出稼ぎをして、娘二人(初代メイドとその妹)も働き者で、コツコツお金を堅実に貯めて、ヤンゴン郊外に一軒家を建てているという本当に模範的な家族。その中で、娘婿の我が家のドライバーだけが問題児であるようです。

 

お酒やギャンブルの問題も、直接メイドが話すことはないので、最初のうちは全く気づかなかったのですが、ナニーが一度、運転手が結婚指輪を質屋に入れようとしたので、嫁である初代メイドを不便に思って、お金を貸したところ、最終的には指輪を質屋に売って、かつ貸したお金も帰ってきていないことに腹を立てて私に教えてくれて色々事情を知りました。なんでも、どうやら金貸し屋からも取り立てがあるみたいで、週末になるといつも金貸し屋から取り立ての催促があるとも言っていました。1年ほど前に共同名義の車を売ったのですが、それもギャンブルで大きな借金ができて、車を売って借金返済をせざるを得なかったとか。もう結構札付きですね。

 

彼は、敬虔なクリスチャンで、毎週日曜日は教会を欠かさないし、本人もまずいと思っているようです。その証拠に自主的に何度か禁酒も試みているとのこと。でも、成功したことはないようです。

 

完全に依存症なのだと思います。この前ラジオ番組で依存症患者を支援するNGOの方が言っていましたが、依存症の最も典型的な症状は、「渇望」と「判断力の欠如」だそう。本当ならば、仕事や家族を優先するべきが、お酒やギャンブルをするためならそうした自分にとって大事なものさえも犠牲にしてしまうという行動そのものがもっとも代表的な症状なのだと言っていました。

 

この国では、金利の上限を設定するような法律もなく、民間の金貸し屋の金利は2割、3割が一般的です。なので、借金をすると本当に返すのが大変なのです。なので、運転手の借金の状況はいつも気になっていました。

 

それでも、私としては、仕事は問題なくこなしてくれているし、特に深刻に問題意識をしていたわけではありませんでした。ところが、このお嫁さん、夏頃妊娠が分かり、私の中ではその心配がますます大きくなっていきました。というのも、メイド家に頼まれて、お嫁さんが臨月になって家から通うのが難しくなったら、産休に入るまでの期間我が家に滞在することになっています。そして、我が家に娘のベビー用品がたくさんあったので、ベビーカーから搾乳機に至るまで一式プレゼントしたりしていて、メイド家との関わりがより一層深くなっているのです。

 

年明けには赤ちゃんが生まれるので、今後一層家計をうまく切り盛りして行かなきゃ行かないというのに、全く生活を変える気配のない夫/婿に、私の前では絶対に見せませんがメイド家族の不満はかなりのもののようです。

 

そして、極め付けに、この運転手が給料の前借りをお願いしてきました。前借りと言っても、半月に一回払っているものを、月の半ばに全額欲しいという、まあかわいいもんなのですが、そもそも、毎月そこそこの給料をもらっているのに、月の半ばで1ヶ月分の給料が必要な理由というのが怪しい。

 

ここで、普通なら、①前払借りを断る、もしくは②何も言わず払うというのが一般的な大人のお付き合いなのかもしれませんが、前者は借金が膨らむ可能性があり、後者は運転手の酒癖・ギャンブル癖を助長させる懸念があり、メイド家族のことを考えるとどうしてもできませんでした。かと言って、他人の家の金銭事情に口を挟むのもどうかと思うし、第一に妊婦のお嫁さんに相談するのもどうかと考えると悩ましい。

 

迷った末、やはり、月末に給料が入らないということを嫁が知っている必要があると思い、嫁にSMSを送りました。「あなたの夫から給料の前借りを依頼されているが払って良いか?もしもお金のことで問題があるのなら相談に乗る。子供も生まれるし、借金があるのなら今のうちに精算した方がよいよ」というおせっかい極まりないメッセージを送ってしまいました。

 

彼女からは夜遅くに返信がきて、「夫から事情を聞いたら、ある人にお金を渡す必要がある。もし良ければ、前借りに応じて欲しい」「ちょっと口論になったけど、大丈夫。お金の問題はないので心配しないで」という返事でした。

 

わー、いい歳して出しゃばったことして恥ずかしい。

 

でも、次の日、ナニー経由でメイドから聞いた話では、嫁が「これから子供が生まれるっていうのに、あんたはなんでお酒ばっかりの生活を改めないの」と問い詰めて、泣いていたそう。

 

妊婦に心配と夫婦喧嘩をさせてしまって、さらに後悔。

 

日本だったら考えられないけど、ミャンマーだったらありかなと思って、少し他人の家の事情に介入し過ぎてしまったことに大きく反省をしました。

 

でも、やっぱり心配だし、放っては置けないという気持ちもあるから難しい。

 

他人との距離を学んでいるのは何も幼稚園児だけではない。私も、こうやって日々、人との距離の置き方を親切とおせっかいの境界線を模索しているんだなと実感した出来事でした。

 

今日は長文を書いてしまいました。おやすみなさい。